開発最前線 vol.1 井上 文

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お客様と一緒に課題をクリアし良い製品を、良いタイミングで提供していく

コンピュータの中に組み込まれているハードディスク(HD)には、表面を保護するためにわずか1~2nm(ナノメートル)の薄さの潤滑剤が塗られている。MORESCOはこのHD表面潤滑剤で世界トップシェアを誇る。ハードディスクドライブ(HDD)の高性能化に欠かせないHD表面潤滑剤の研究開発に挑む井上文に、現在取り組んでいる研究テーマについて聞いた。

井上 文

研究テーマ HDの大容量化とともに表面潤滑剤の薄膜化が求められる

私は、コンピュータの中に組み込まれているハードディスク(HD)の表面を保護するために塗る潤滑剤の開発を行っています。ハードディスクドライブ(HDD)は1990年代半ばごろから使われ始めたコンピュータの記憶装置で、現在も主流を占めています。HDの断面(図)を見ると、一番下の基盤に、記録をする磁性体、カーボン保護膜を重ね、その上に1~2nmの厚さで表面潤滑剤が塗られています。近年、HDの大容量化に伴い、記録密度を向上させるために、読み取り・書き込みを行うヘッドと保護膜の隙間を狭くすることが求められています。そのために潤滑膜をできるだけ薄くすること、これが私たちの研究テーマのひとつです。HD表面潤滑剤の開発は、潤滑剤の設計・試作・社内評価を経て、お客様による評価で性能が良ければ、認定・採用に至るという流れです。案件ごとに一つ一つオーダーメイドのようなかたちでカスタマイズして開発していくところに仕事の醍醐味を感じています。

研究の難しさ お客様に使っていただいて初めて、実機レベルでの評価が分かる

HD表面潤滑剤の膜は、分子1つ分程度の厚みであることが求められるようになっています。なおかつ、高速回転での遠心力でも飛び散らない付着性、ヘッド先端部分との接触により破れた膜を自己修復できる流動性、あるいは製品を安定させるための耐熱性、耐分解性、被覆性など、求められる機能を満たす製品を開発するのは簡単なことではありません。開発したHD表面潤滑剤は、試作をして社内評価を経てから、お客様に評価していただくのですが、社内ではお客様と同じ条件のもとでの評価ができない点に困難を感じます。実際にお客様のところでHDに塗ってもらわなければ結果が分からないのです。表面潤滑剤の合成には数週間~数ヶ月を要することもありますが、お客様に納得していただくまで、改良を行い、時間と戦いながら、実験と分析を繰り返します。

独自性 精密精製技術で純度の高い表面潤滑剤を作り出す

MORESCOの強みの一つは、精製技術が高いことです。例えば、精製によって原料の純度を上げることで、原料そのものの性能が引き出しやすくなります。合成反応の際には、原料の不純物による反応性の低下を防ぐことができます。また、表面潤滑剤を合成した後の精製工程においても、より不純物の少ない製品に仕上げていくスキルがあります。HD表面潤滑剤のトップメーカーとして、純度の高い製品を数多く作ってきた経験から得た知見があることは、当社の強みですね。

また、お客様の要求などに対して、柔軟さとスピードのある対応ができることが挙げられます。中小企業の強みともいえますが、少人数部隊ですので、上司との距離も近く、つぎのアクションをどうするか、素早い判断、意思決定ができます。お客様とは、日頃から、ミーティング・電話会議・メールなどを通して密にやり取りをしていますし、お互いの提案をすぐに形にする信頼関係を築ける組織になっていると思います。

課題解決 不純物の発現や付着性の悪化に対し、製法の全面変更と精製条件の変更で解決

開発における課題はその都度解決していますが、すでに製品化されたもので、純度面で不具合が出たことがありました。当社の分析装置では発見できず、お客様のところでHDに塗ったところ、不純物が見えるという状況でした。製法をガラリと変えることで、この不具合は解消したのですが、今度は、今までと同じ規格内で作っているのにもかかわらず、潤滑剤の付着性が悪くなってしまいました。製法を変えたことが影響していると考えられ、工程の見直しや、旧製法で作った製品との比較、成分分析を綿密に行いました。その結果、新たな規格を設け、精製工程の条件を変更すれば、付着性に寄与する成分の含有率を最適化できることが分かりました。こうして、付着性を要求レベルにまで上げることに成功し、お客様での採用が決定、製品化することができました。開発は部全体で行っているので、このような問題が発生した時はメンバーがアイデアを出し合って解決しています。

仕情報を敏感にキャッチし、どんどん新しい提案をしていきたい

研究開発で心掛けているのは、顧客志向でいることです。自分たちの都合ではなく、納期も性能もお客様のニーズにできるだけ応えるようにしていきたい。お客様とはお互いに意見をすり合わせながら開発を進めており、良い製品を作ることこそが信頼を得るための基本。そのためにも、私たちの方からどんどん新しい提案をしていかなければいけないと思っています。

また、HDの記録方式も変わってきているので、そうした情報を敏感にキャッチし、新規潤滑剤の提案に活かしていきたいと思います。変化のスピードが速いHD業界の動きをしっかりとフォローし、良い製品を良いタイミングで提供していくのが目標です。そのためにも、固定概念を持たず柔軟な姿勢で対応できるよう努力していきます。

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vol.1 合成潤滑油 事業部 合成潤滑油開発部 井上 文

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